薬の現象学という書籍を出版させていただいてから、早いもので2年が経過しようとしています。本書は、エビデンスに関心を向けながらも、臨床判断の非科学的、あるいは非合理的な側面を、存在・認識・情動・生活という観点から言語化を試みたエッセイ集です。哲学者の野家啓一先生にご監修を頂きました。
本書の関心は、「薬がどのように効くのか?」、「薬がどれほど効くのか?」 といった自然科学的な問いではなく、「薬を飲むとはどういうことか?」、「薬が効くとはどういうことか?」といった人文科学的な問いにあります。
今更強調するまでもなく、薬物療法は医療サービスの中心的な役割を担っています。エビデンスに基づく医療(Evidence-Based Medicine:以下 EBM)が広く普及した現代医療において、薬剤の効果は主にランダム化比較試験によって評価され、相対危険度や絶対リスク減少などの統計的指標で表現されることが一般的となりました。
しかし、薬の「真の効果」とは何でしょうか。真なる薬の効果はどのように存在、あるいは認識され、人の情動や生活に対して、どのような影響をもたらすのでしょうか。
今回の記事では、薬の統計的効果量を出発点として、存論、認識、情動、そして生活という観点から、エビデンスの活用をめぐる薬の現象学的アプローチを【前編】と【後編】に分けて論じます。