複数の慢性疾患(マルチモビディティ)を抱える人では、多数の薬剤を同時に服用せざるを得ないような、複雑な薬物療法を受けていることが多く、このような現象はポリファーマシーと呼ばれます。
ポリファーマシーは、臨床的に適切な場合も多く、必ずしも不適切なケアを示唆するものではありません(Cadogan, et al.2016; PMID: 26692396)。
しかしながら、高齢者におけるポリファーマシーが、死亡、薬物有害事象、転倒、入院期間、再入院のリスク増加と関連することは、複数の観察研究によって示されています(Masnoon, et al.2017; PMID: 29017448)。
一般的に、服薬に関連する患者の負担や、薬物治療に対する患者の経験(体験)は、健康状態や幸福感だけでなく、薬剤効果に対する信念、あるいは健康に関連した行動にも影響を及ぼします。
一方で、ポリファーマシー状態にある人が、自身の服薬体験において、どのような価値観や想いを抱いているのかについては良く分かっていません。ランダム化比較試験のような介入研究では、被験者の想いや価値観を客観的に定量化することは困難であることも、その理由の一つと言えるでしょう。
今回の記事では、ポリファーマシーを有する人に対して、服薬に関する具体的な体験や価値認識を検討した質的研究のシステマティックレビュー(Eriksen, et al.2020; PMID: 32895268)の概要を解説し、ポリファーマシーと向き合う上で留意すべき視座を整理してみたいと思います