新型コロナウイルスの感染が拡大した当初、治療薬候補として関心を集めた薬の一つにイベルメクチンがあります。駆虫薬として用いられてきた同薬ですが、2021年に新型コロナウイルス感染症に対する有効性を検証したランダム化比較試験が報告されました(Medina, et al.2021; PMID: 33662102)。
コロンビアで行われたこの研究では、PCR検査で陽性が確認された軽度の症候性COVID19患者398人(年齢中央値37歳、女性58%)が解析対象となりました。被験者は、イベルメクチン(1日300μg/kg)を5日間投与する群と、プラセボを5日間投与する群にランダム化され、21日後の症状改善までの期間が検討されています。
解析の結果、症状の解消までの期間(中央値)は、イベルメクチン投与群で10日、プラセボ投与群で12日でした。症状消失に対するイベルメクチン投与群のハザード比は1.07 、95%信頼区間は0.87〜1.32と、統計的有意な差を認めていません。この結果をもってして、イベルメクチンに効果がないと結論して良いでしょうか。
確かに示されている結果に、統計学的に有意な差はありません。しかし、効果の「あり」/「なし」という判断は、統計的に有意な差を基準とするか、臨床的に意味のある差を基準とするかで大きく変わります。
この記事ではランダム化比較試験の被験者数や、解析結果の推定精度という観点から、論文の批判的吟味にとって最も需要なテーマの一つである、一次アウトカムについて解説します。
主要なランダム化比較試験の被験者数
【図1】は、先ほどのイベルメクチンの研究(Medina, et al.2021)と、心血管イベントに対する予防的治療の効果を検証した代表的なランダム化比較試験について、被験者の人数と相対危険減少を表わしたものです。
【図1】主なランダム化比較試験の被験者数と相対危険減少
例えば、心血管イベントに対するエゼチミブの有効性を検証したIMPROVE-IT試験では18,144人を対象にランダム化比較試験が実施され、結果として示されたハザード比は0.936[95%信頼区間0.89~0.99](相対危険減少6%)でした。
約18000人を対象に行われたこの研究は、予防的治療介入を検証したランダム化比較試験の中でも、かなり大規模な研究です。また、結果として示されている95%信頼区間の幅が狭いことにも注目しておくと良いかもしれません。
【図1】に示したように心血管イベントに対する予防的治療介入の有効性を検証するためには数千人規模で研究を行うことが一般的です。一方で、イベルメクチンの有効性を検証したランダム化比較試験(Medina, et al.2021)の最終解析人数は398人でした。