前回の記事でも考察したように、Evidence-Based Medicine(EBM)は、現代のヘルスケアにおいて重要な役割を果たしてきた一方で、その本質と限界を理解することは必ずしも容易ではありません。
知識とは、一般的に論理的な正当化が可能であり、人の行動に強い影響を与える信念の集合であると考えられます。そして、人の知識の源泉たる根拠(エビデンス)は、実に様々な形態をとり得ます。1人の経験に基づく知識もあれば、集団を観察した結果として得られた知識もあるでしょう。
しかし、EBMの実践においては特定の種類のエビデンス、特にランダム化比較試験やシステマティックレビューから得られた情報を重視する傾向は否めません。そのような中、Sharmaらは2012年に発表した総説論文で、EBMの実践における限界を乗り越えるための方法論として、頻度論的思考からの脱却と科学理論の復権を提案しています(Sharma V, et al.2012. PMID: 22275494)。
今回の記事では、Sharmaらの総説論文に基づき、EBMの実践において参照すべきエビデンスの多面的な視座を解説します。