妊娠中の女性に対するロキソプロフェン処方の件が、Twitter上で関心を集めていました。同薬は妊娠末期の女性には禁忌となっており、妊娠末期以外の妊娠女性や、妊娠の可能性のある女性にも有益性投与となっています。ロキソプロフェンのようなNSAIDsを妊婦に使用すると、胎児の腎機能障害及び尿量減少、それに伴う羊水過少症のリスクがあること、妊娠末期においては胎児の動脈管収縮のリスクが報告されています。
米国食品医薬品局(Food and Drug Administration:FDA)は、「妊娠 20 週以降におけるNSAIDsの使用を避けるべき」とするステートメントを2020年に公開しています(FDA.2020)。妊娠20週以降では胎児の腎機能に対する悪影響や、羊水過少症の懸念が高まるといった安全性上の懸念が理由です。
ロキソプロフェンに限らず、妊娠中の女性にNSAIDsを投与する場合には、たとえ禁忌に該当せずとも、必要最小限の投与にとどめ、羊水量を適宜確認するなど慎重な対応が求められます(Antonucci, et al.2012; PMID: 22299823)。アセトアミノフェンという代替薬がある以上、妊娠女性に対するロキソプロフェンの投与は正当化されないでしょう。
添付文書にも記載がある通り、NSAIDsと周産期アウトカムの関連性を検討した研究は多く、流産(Li, et al.2003; PMID: 12919986/ Li, et al.2018; PMID: 29890124)、早産(Quantin, et al.2022; PMID: 33590634)、胎児の動脈管閉鎖(Koren, et al.2006; PMID: 16638921)のリスク増加や、羊水過小症の症例(Campbell, et al.2017; PMID: 28680471)が報告されています。
一方で、統計的有意な有害事象リスクの増加を認めていない研究も報告されています。例えば、2022年に報告されたNSAIDsの使用と流産リスクの関連を検討した10研究のメタ分析では、オッズ比1.37[95%信頼区間0.99〜1.88]と、増加傾向にあるものの有意な差は示されませんでした(Ying, et al.2022; PMID: 34635936)。
また、2001年に報告された症例対照研究では、妊娠中のNSAIs使用で、先天性異常、低体重児、早産のオッズ比(95%信頼区間)は、それぞれ1.27(0.93~1.75)、0.79(0.45~1.38)、1.05(0.80~1.39)と、統計的有意な差を認めていません(Nielsen, et al.2003; PMID: 11157526)。
実はNSAIDsに限らず、周産期アウトカムと薬剤曝露の関連性を評価する上では、immortal time biasと呼ばれる時間関連バイアス(Time-related biases)の影響を考慮する必要があります。場合によっては関連性を過小評価してしまうこともあり注意が必要です。この記事では、周産期アウトカムと薬剤曝露の関連性におけるimmortal time biasの影響について考察します。