治療の一環として実施される医学的介入の一つに、健康関連行動に対する変容介入を挙げることができます。例えば、禁煙治療における喫煙行動を抑止するための行動変容や、身体活動を促すための行動変容などを挙げることができるかもしれません。
近年では、行動経済学における「ナッジ」という概念を用いた介入の検討も行われており、健康リスクに配慮した生活環境の構築という視点も注目を集めています。例えば、運動機能や認知機能に対する買い物リハビリテーション(買い物を促すことでリハビリ効果を期待する介入)の有効性を検討した研究結果が報告されています(Mouri N, et al.2022;PMID: 35010839)。
医学的な介入として行動変容を促すということは、変容させたい行動内容が、健康状態にとって良いという前提があるはずです。そうでなければ、行動を変容させる必要性はありませんよね。買い物リハビリテーションも、健康にとって良い影響をもたらす可能性が高いという前提があるからこそ、医学的介入として検討の余地があるわけです。
しかしながら、行動変容に付随し得る潜在的な害に対して、関心が向けられる機会は少ないように思います。2024年10月11日付で公開された「日本人の食事摂取基準(2025年版)」策定検討会報告書において、炭水化物より先に野菜などを食べることで食後の血糖値を抑制するという食べ方、いわゆるベジファーストに関する記載が削除されたと話題になりました。
ベジファーストの有効性については、別途の議論を要することでしょう。ここで着目したことは、ベジファーストが健康にとって良いという前提があったとしても、ベジファーストを推奨することの害には関心が向きにくい可能性です。今回の記事では、行動変容介入の潜在的な害について、文献的な考察をしてみたいと思います。