疾患個別の診療ガイドラインの存在や、人口の高齢化に伴い、世界的にも処方薬の種類と数が増加傾向にあります。一方で、マルチモビディティ状態にある患者の標準的な治療指針や、処方中止に関するアプローチの方法論は、十分に体系化されているとはえいません(Smith, et al.2012; PMID: 22945950/ Hughes, et al.2013; PMID: 22910303/Ailabouni, et al.2016; PMID: 27093289)。
日本でも、ポリファーマシーに関連した問題は、医療従事者のみならず、広く一般社会からも注目を集めました。
一方で、薬剤の多剤・長期投与と潜在的な有害事象の関連性について、一部の症例報告を除けば、明確な因果関係として定量化されたリスクの大きさははっきりせず、減処方介入の有用性についても、その効果量は曖昧です(Cole, et al.2023; PMID: 37818791)。
とりわけ、プライマリケアのセッティングにおいて、多剤併用がなされる背景や患者の予後因子、薬物治療のバリエーションや、治療に対する医師、患者の価値観などの要素は複雑性が強く、臨床アウトカムに影響し得る変数が膨大です。
一つや二つの変数に介入を行ったところで、患者の「生活」というアウトカムに与える影響度は微々たるものなのかもしれません。その意味では、多剤併用をめぐる問題群は、よりメタ的な視点でとらえる必要があるように思います。
この記事では、高齢者薬物療法におけるポリファーマシーがもたらす潜在的な有害事象を整理したうえで、減処方介入に対する社会生態学的な視点をご紹介します。