新型コロナウイルスの感染拡大によって、プライマリケアにおけるウイルス性上気道炎の診療風景は様変わりしたように思います。いわゆる風邪に対する抗菌薬処方の問題は、政策的な感染予防策の実施によって鳴りを潜めたようにも感じますが、日本における抗菌薬の処方トレンドを検討した論文が2020年に報告されていました(Hashimoto, et al.2020; PMID: 31730926)。
2012年4月から2015年3月までの診療報酬データから、感染症で医療機関を受診した6億5900万件を解析したこの研究では、人口1000人あたり年間704件の抗菌薬が処方されていたと報告されています。抗菌薬は第三世代セファロスポリン、マクロライド、キノロンで処方量全体の85.9%を占め、抗菌薬処方の実に56%は適応がない症例に投与されていました。特に、抗菌薬の適応がない気管支炎やウイルス上気道炎に対して第3世代セファロスポリンの処方量が多いという結果です。
良く知られているように、経口第3世代セファロスポリン製は一般的にバイオアベイラビリティが低いと考えられており、その臨床的な抗菌活性については議論の余地があるところでしょう(Kucers’ the use of antibiotics. 7th ed. USA: ASM Press; 2017/Itoh, et al.2023; PMID: 36758108)。
また、経口第3世代セフェムの有害事象として、低カルニチン血症に伴う低血糖が知られています。2012年には、医薬品医療機器総合機(PMDA)から医薬品適正使用に関する注意喚起文書が発出されています(PMDA.2012)。低カルニチン血症に伴う低血糖は、経口第3世代セファロスポリンに限らず、経口カルバペネムのテビペネムなど、ピボキシル基を有する抗菌薬に共通する潜在的な有害事象です。この記事では、ピボキシル基を有する抗菌薬(pivalate-conjugated antibiotics, 以下PCA)と、低血糖のリスクの関連性についてレビューします。