ベンゾジアゼピン系薬剤を含む催眠鎮静薬の製剤添付文書には、「薬剤影響が翌朝以後に及び、眠気、注意力・集中力・反射運動能力などの低下が起こることがあるため、自動車の運転など危険を伴う機械の操作に従事させないように注意すること」といった趣旨の記載があります。
添付文書上、運転禁止薬と呼ばれるこのような薬剤は、ベンゾジアゼピン系薬剤に限らず、非ベンゾジアゼピン系の催眠鎮静薬や抗ヒスタミン薬など、その種類も多岐にわたります。
自動車を運転するというプロセスは、極めて複雑な行動形態であり、安全に自動車を走行させるためには、身体機能のみならず認知機能の維持が重要です。これらの機能低下は、当然ながら自動車事故を引き起こす強い原因となるでしょう。
実際、いくつかの薬剤クラスは、自動車運転の能力に影響を与え、障害や死亡を含む自動車事故のリスクを高めることが知られています(Ivers&White.2016; PMID: 30202255)。
米国運輸省道路交通安全局(NHTSA)が2008年に行った調査によれば、潜在的に自動車運転能力を損なう可能性がある薬剤は約90種にのぼり、これら薬剤を服用して自動車運転した場合では、服用しないで自動車運転した場合と比べて、自動車事故に遭遇する可能性が1.2~1.5倍上昇すると報告されています(NHTSA. 2008-05-01)。
この記事では、薬剤の使用と自動車運転能力に与える影響をレビューしたうえで、催眠鎮静薬と交通事故リスクの関連性について考察したいと思います。