公衆衛生介入に投下された資金でいくら儲けられる?

公衆衛生介入に投下された資金でいくら儲けられる?

【★★☆(中級)】医学的介入の資本利益率(Return on Investment)

2023/2/15

 米国の物理学者であり、政治家でもあったベンジャミン・フランクリンは、様々な名言・格言を残したことで知られています。そのうちの一つ「An ounce of prevention is worth a pound of cure(1 オンスの予防は 1 ポンドの治療に値する)」は公衆衛生にとっても意義深いものです。
 1オンスという単位は約 0.0625ポンドに相当し、16オンスで1ポンドとなります。「1 オンスの予防は 1 ポンドの治療に値する」とはつまり、予防は投資額に対して優れた利益率を得られるというわけです。
 投下された資本(自己資金+借入資金など)に対してどれだけの収益が得られたかを表す財務指標の一つにROI(Return on Investment:資本利益率)があります。たとえば、工場の操業に投下された資金に対して、どれほどの利益獲得がなされているかを評価する指標がROIです。
 ROIは(利益÷総資本)✖100で算出できます。この場合の利益とは、「売上ー費用」のことで、企業活動に投下された資本に対して、どれだけ純利益を獲得できたか、その割合を意味する概念です。端的には、1円の資本(元手資金)で2円を稼ぐことができたらリターンは2倍、つまりROIは200%です。このように、投下資本よりも収益(リターン)が大きければROIは100%以上となります。
 ROIは、様々な意思決定の場面において、手持ちの資金を有効に運用する際の判断材料となります。例えば、大学受験をする際に、今手持ちの資金で、どの学部に行けば、リターンが大きいかを考える場合にも役立ちます。様々な学部で学べる知識を貨幣価値的に見積もり、それを獲得利益と考え、手持ち資金の総額で割ればよいわけです。ROIが高ければ高いほど、リターンに優れた学部ということになります。
 公衆衛生に関わる政策の実行においても、国費という手持ちの資金の有効活用が期待されます。例えば、新型コロナウイルス感染症の流行下に、2020年4月から一斉配布されたガーゼ製布マスク、いわゆるアベノマスク(Abenomask)は、総額260億円とも言われる国費が投下されました。しかし、その投下資本に対して、社会全体でどれだけの貨幣価値的な恩恵が得られたのでしょうか……。そんな問いに対してROIは客観的な情報を与えてくれることでしょう。
 この記事では、多様な公衆衛生的介入のROIについて、これまでに報告されている主要な論文を紐解いていきたいと思います。

公衆衛生的な介入で得られるリターンは?

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