高齢化が進む先進諸国では、認知症の有病割合も増加の一途をたどっています。コリンエステラーゼ阻害薬は認知症の治療薬として広く用いられている薬剤の一つです。しかし、認知症に対する同薬の有効性については議論の余地も大きく、統計学的にはごくわずかな臨床効果に過ぎない可能性もあります(Moreta MP, et al. 2021;PMID: 34829917)。
ただし、認知症に対するコリンエステラーゼ阻害薬は、心血管イベントの既往、抗精神病薬や抗凝固薬の服用歴、人種など、様々な要因によって有効性が異なる可能性も報告されています(Perera, et al.2014. PMID: 25411838)。そもそも、認知症は多因子的な疾患であり、認知症患者の予後因子もまた、小さくない異質性の存在が指摘できます。
また、認知症の進行に伴い発症するBPSDに対して、抗精神病薬、抗うつ薬、ベンゾジアゼピン系薬剤などが処方されることもあります。認知症患者に対する抗精神病薬の使用は、死亡リスクの増加と関連することが知られています(Ralph SJ, et al. 2018. PMID: 30480245)。
認知症患者は病状の多様性に加え、提供される薬物療法も多様であり、疾患進行とは独立した要因もまた、薬剤効果や生命予後に影響を与えているように思われます。
したがって、認知症に対するコリンエステラーゼ阻害薬の効果量を評価するうえでは、投与される患者の背景に起因する不均一性(あるいは異質性)の存在に着目する必要があるかもしれません。端的には、同薬の有効性にはバラつきが生じるということです。
今回の記事では、コリンエステラーゼ阻害薬の有効性に影響を及ぼす因子を整理したうえで、認知症に対して同薬を処方することの合理性について考察します。